※セッション中のアティ、ジョンの台詞を使用させていただいております。また、微妙に小説仕立てにするべく、流れなどを変えております。
「いい加減に目を覚ませ、ラングウッド。お前は操られている。俺は助けに来たんだ!」
助けはもたらされた。けれど差し出された手をつかめない自分が、悲しかった。
【救】
パーティの日が来た。伯爵がリューを紹介しようとしている言葉に割り込むように、仕掛けを動かす。
花を大量に咲かせて、煙を上げる。それで、インパクトは十分だ。
「Let's show time!」
リューは声を上げ、颯爽と煙の中から現れて見せた。唖然としている客にウインクをし、手の中からさらに花を出す。ここ一週間の中で、一番自分の意思に近い状態だった。
薬は飲まされている。だが、ショーの間だけはショーに集中して全力を出すように、とフローラから言われているため、まだ意識がはっきりとしている。
沸き起こる拍手に、リューは優雅に礼をしてみせた。伯爵がパーティの開始を宣言すると同時に、続けざまに手品を行う。すぐに貴族の客に取り囲まれた。無数の視線を向けられる中、手の中でボールを躍らせ、指を鳴らすと同時に二つに増やす。ふと、種をばら撒きそうになり、内心慌てながらもそれをフォローした。一週間ほど練習していないためか──はたまた、薬の影響か。いつもの調子が戻らない。幸いにも、客たちには気付かれなかったようで、ホッとした。
楽しそうに見つめてくる子供達に答えるように、笑顔でトランプの手品に移る。
「リューさん、リューさぁん。ボクも、ボクもお手伝いさせてにゃ〜」
心臓が、はねた。聞き覚えのある声。ありすぎる声。正装をして、笑顔でジャップをしているケットシー……アティ、だ。芸人とは違う、もう一つの職業「冒険者」での仲間。心は何故ここに? と思う。だが必要以上には接触するな、とフローラから言われているためか、薬の影響が強まった。何も出来ないまま、表向きは平然と手品を続けるしかない。
微笑んで、トランプをアティと、その周りの子ども達の集団に差し出す。
「じゃあ、君も一枚どうぞ」
「わーいなのにゃー♪」
アティが嬉しそうにトランプを引く。
少し意識してみれば、アティ以外にも仲間は居るようだった。バーナーズ家のパーティに冒険者である彼らがいる理由は、依頼に違いないだろう。何の依頼だろうか? 何の依頼にしても、チャンスだ。ここで逃せば、次に自分が仲間と接触できるチャンスはないかもしれない──そう心は思っても、手は自然と手品を続ける。もどかしい。
「じゃあそのカードをしっかり覚えてねっ」
「わーい。わかったのにゃ〜♪」
そうしているうちにも、手品は進行している。じっとアティと子供達がカードに意識を集中した。その様子に、とてつもなく悲しくなり、またそれに反するように心が落ち着く。
「覚えたら、このカードの山に戻して──」
「君、火を貸してくれないかね?」
「え?」
手品を義務的に続けていると、唐突に声が掛けられた。いつの間にか立っていた彼に、リューの思考が停止する。他にも冒険者の仲間がいることは知っていた。けれど、今まで彼がいることには気付いていなかった。彼──ジョンは貴族の正装をし、葉巻をリューへと差し出している。
リューは知らない。その瞬間は思考のみならず、動作すらも止まっていたことを。
「りゅ、リュー様〜。カード、落としますよ〜」
フローラの声に薬が強まる。命令となって自由を奪っていく。
「え? あ…………ええと」
支配力が強まっていくうちに、ジョンは肩をすくめ、タバコをくわえて離れていった。
フローラに再度声をかけられて、体が手品を進めようと動き始める。いつの間にかアティにトランプを取られていたことに気付き、声を掛ける。
「良く混ざったかなぁ?」
「いっぱいまぜまぜなのにゃ〜♪ これでどこにカードがあるかなんてわかんないのにゃー」
「ありがとう♪」
散々混ぜられたカードを受け取り、指を鳴らす。多少の粗さは抜きにして、力技で特定のカードを取り出した。
「はいっ。君の選んだカードはこれかなぁー?」
「はにゃ〜〜?! なんでにゃーー!? どうしてにゃーー!? すごいのにゃ〜。うー。おかしいのにゃっ。きっと背中に目がはえてるのにゃ〜」
ヒゲをぴくぴくさせて、驚いた顔をしたアティはリューの背中へと飛び乗ってくる。
「目ははえていないよ。ぼくはマジシャンだもの♪」
ソレに対応しながらも、意識はジョンへと向いていた。
やがて、フローラに切り上げるよう「命令」されて、手品をやめた。その際、アティがポケットに何かを忍ばせたような気がしたが──……命令には含まれていないため、身体は反応しない。ただ、何となく何をされたのか意識ではわかっていた。
+++
フローラにいわれていたとおりに、薬を壁際で飲む。意識は拒否をしても、手は動いていく。
そのうちに、やはりアティの使い魔──主人と感覚を共有できる動物──であるハムスターのチムニーをリューのポケットに入れていたのか、まっすぐアティが近づいてきた。
「…………ラング?」
呼びかけられ、リューは自然とそちらを見る。
「ラングウッド? ラッセ? それとも、リューだって、思い込んでるのにゃ?」
「ぼくはぼくだ。ラングウッドでも、ラッセでも、リューでも。ぼくはぼく……」
ラングウッド、それは冒険者の仲間内での名前。ラッセ、それはある芸人仲間達の前での名前。そしてリューが、バーナーズ家ひいきの芸人だった。どれもリュー自身であることには代わらず──だからこそ、リューであることだけを求められている現在は、何かがかけている。
「じゃあ、質問を変えるにゃ。今の、貴方は、ボク達と一緒にいたころの記憶をもってるにゃ?」
「持ってるけど……だから……?」
薬を飲み干して、アティの質問に「リュー」は冷たく答えた。心配してくれているのに、冷たく答えることしかできなかった。心が軋む。薬の痛みよりも、もっと酷い。どこまでが自分で、どこからが自分ではないのか分からない。苦しい。
アティがショックを受けた様子で去り、フローラとフードの男がやってきてジョンと話していても、どこか世界が遠い。
「リュー様、そろそろお休みになったほうが──」
「……ああ、そうですね。そろそろ休んだほうが……」
いやだ。
フローラの言葉に自然と答える自分と、反対のことを思っている自分。どちらが本当の自分だろう。
そんなことをぼんやりと考えているうちに、フローラと話を終えたジョンが近づいてきた。フローラはジョンに言い負けて、フードの男と共に去っていく。ジョンと二三話をしているうちに、薬を入れていたグラスを取られる。そして止める間も──最もリュー自身は止められないのだが──なくジョンはグラスの中身を全て飲み干した。その間にも、リューは瓶から直接薬を煽る。手は止まらない。その様子にジョンは多少具合が悪そうにしながらも、尋ねてきた。
「……きみ、そんなにがぶがぶのんで……大丈夫なのかね?」
リューが別のことを言おうと思っても、口では「へいき」と既に答えている。
そんなリューを知ってか知らずか、ジョンは仕方なさそうにするとリューの肩へと手をかけ──耳元で、囁いた。
「いい加減に目を覚ませ、ラングウッド。お前は操られている。俺は助けに来たんだ!」
切羽詰った声。次の瞬間にはジョンは手を振って離れていく。
助け、に……?
ようやく何かがリューの中で繋がった。何かの依頼で来ているであろう仲間──何かの依頼で、ではない。リューを、ラングウッドを助けに来たのだ。あれほどまでにリューへと話しかけてきたのも……。
──助けに。助けに来てくれた。
その手をつかみたかった。仲間達はいる。ちゃんと声を出して意思を伝えたかった。そうすれば、すぐにでも助けてくれるとわかっていたから。
けれど。……薬が強まる。心はそう思っても、身体は動かない。
リューは頭を振って、持っていた瓶の中身をまた煽った。
どうして? 来てくれたのに。助けに来てくれたのに!! どうして差し出された手をつかめない。どうして──……。
フローラに言われるがままになっている自分を罵りながら、リューは嘆いた。
リューが嘆こうと嘆くまいと、仲間達は手を伸ばす。そしてフローラを倒して、フードの男──ノール──を退かせ、バーナーズ家が覆い隠したものを暴いた。
今回のことは解決した。だが、全てが終わったわけではない。
ノールの行方は、目的は、依然として知れなかった。