切られた瞬間は、思った以上にあっけなかった。
いつもの依頼だ。カイヌスに入り込んできた盗賊団を倒すという、依頼。貧民街の近くにある入り組んだ路地に入り込んだ敵を追って、ユーンとスオとディッファのいつものメンバー、それに臨時に雇った戦士は走っていた。
別ルートから兄・シーンのパーティも盗賊団を追っている。今回の盗賊団は規模が大きく、協力して討伐に臨んでいた。
今追いかけている相手は三人。だが仲間はそこらに潜んでいるらしく、油断はできない。
ユーンが手に握る短剣の感覚を確かめたとき、横道から武器を持った男達が踊りかかってくる。先頭を走っていたディッファが対峙し、新たな敵と切り結んだ。その間にユーン、スオ、戦士は横をすり抜ける。ディッファは直ぐに追いついてきた。
強い敵ではない。ただ多いだけだ。だがそうやって進んでいくにつれて、道は入り組み、どこにいるのかもわからなくなってくる。
カイヌスでも普段は来ない辺りまで入り込み、現れる相手を倒していく。
──他の面々とはぐれたのは、派手に魔法で攻撃された後だった。目の前で散った光を何とかかわしたものの、気づけばすっかり仲間達を見失っていた。
辺りをざっと見回し、眉を寄せる。
(しまった……はぐれた……)
路地は不気味なほど静かで、人一人見当たらない。足跡を見つけようと目を凝らしたが、それらしいものは見つからなかった。
はぐれたときに向かう場所は決めてあった。幸い、じっくりと道を見極めると現在地の検討もつく。来る前に見た地図と脳裏で照らし合わせれば、その場所へ向かうこともできそうだ。
ユーンは踵を返し、目的地へと走り出した。
一人、路地を走る。他の仲間達も目的地へと向かっているだろうか。それとも、今も敵を追いかけているだろうか。
心臓の鼓動が嫌な速度で響く。じんわりと手に汗をかきだした。
敵の潜んでいるかもしれない路地で、たった一人。あまり近接戦闘は得意ではないのに──。
誰にも会わなければいい。それか、早く知り合いに会いたい。
出来るだけ足音を消し、気配を読んで進んだ。目的地が遠い。少しずつ精神が削れていく。焦燥感と恐怖。音を立ててはいけない、けれど早く目的地についてしまいたい。
そんな思考をぐるぐると繰り返しながら、ユーンはようやく目的地の側までたどり着いた。小さく息をつき、このまま目的地に行こうとする。
と、そう簡単にいかないのが物事というもので。
ばったり。もう、ものの見事に角を曲がったところでばったりと、剣を持つ男達と出会ってしまった。安堵で少し気が抜けていたこともあり、思考が停止する。ハッと我に返ったときには既に剣が振り下ろされるところだった。ユーンは咄嗟に短剣で受け流し、避ける。
相手は四人だ。一度見た顔も混ざっている。容赦なく加えられる攻撃を辛くも避け、後退した。
(まずい)
避けきれない一撃を短剣で受ける。その攻撃の重さに、それだけで手がしびれた。
(まずい)
このままではやられるのは確実だ。逃げるしかない。太刀をかわし、一際強く地を蹴って相手と距離を取った。そのまま逃走に転じようとして、先から来る新手に気づく。
短剣を握りなおした。ともすれば止まりそうになる足に、ここで駆け抜けなければ結局はやられるのだと叱咤する。そうして、新手の攻撃をかわし横をすり抜けて。
(あ)
その時は、スッ、となぞられたような感覚しかしなかった。
遅れてやってきた痛みに、ユーンはよろめく。
切られた。
自覚してしまえば、背筋が冷える。反対にわき腹の痛みは酷くなった。思わず左手で抑えれば、ぬるりと手が滑る。
それでも背後から続く足音に、止まることはできずに駆けた。
滴り落ちた血が点々と進んだ道を知らせてしまう。
意識をはっきりとするのも困難で、足を前に動かすことに現実感はない。
ぐらりと酷い眩暈がして、ユーンは身体を投げ出すように壁へと寄りかかった。短剣を持ったまま、手で身体を支え、浅く息をする。
足音が近づいてくるのが聞こえる気がした。だが体は動かない。
(死ぬ……かもな)
かすむ意識の中で、思ったのはそれだけだった。