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 ため息を、一つ。

 ルード家ルード家ルード家ルード家ルード家。
 目がそればかりを言っている相手と話す羽目になることはよくある。それは図書館でカウンターにいるときであったり、冒険者として動いているときであったりするのだが。
 とにかく、そういう相手はユーンの中に他の家族との共通点を探そうとしていることが多い。
 それは憧れであったり、妬みであったりする。憧れの場合は最終的にうなだれることになり、妬みの場合は馬鹿にするような様子になる。
 そして、「ルード家の面汚し」「ルードの次男は役立たずらしい」と噂が広がるのだ。

 今回は図書館で、仕事中であったからまだ楽なほうだった。冒険者の仕事中にそういう相手と出会ってしまえば、酷いときには仕事に深刻な影響が出てしまう。
 ちらりと仕事を続けながら相手の姿をうかがった。ローブを身にまとっている様子からして、おそらく魔法使いだろう。やがて、相手はフン、と鼻を鳴らしてユーンから目線を外し、去っていった。

 そうしてユーンはため息を一つ。

「いつになったらいなくなるんだか……」
 小さく呟いて、仕事を再開する。
 ああいう相手は嫌というほどいて、正直既に慣れてしまった。昔は落ち込んで憂鬱な気分になったものだが、冒険者になったころを境に平気になり、今では腹立たしいぐらいである。
 ユーンはユーンだ。確かにルード家の次男ではあるが、その前にユーンなのである。
 冒険者の仕事も、図書館の仕事もある程度はこなせるようになった。他の家族と同じようなことができるわけではないが、その分ユーンにしか出来ないこともある。
 だがそれを認める人は少なく、そのことがもどかしい。

 自分を見ろ。
 ルード家ではない。ユーンを見ろ。
 面汚しだと、役立たずだと、そう言っているのはユーンを見てないからだろう?

 はぁ、と息をついて頭を振った。今考えていても仕方ないことだ。何かを成し、認められようとするなら、今はただ仕事に集中するべきである。
 ユーンはペンを取った。そして、確認作業に戻った。

「……結局、あれからは誰も来なかったな」
 ふと時計を確認し、本を閉じた。ルード家に興味のある輩どころか、本を借りに来る相手もいなかったのだ。
 ここを片付けて、向かえば丁度良い時間だろう、とそんなことを思って手早く片づけをはじめる。
 奥の部屋に置いていたコートを羽織り、荷物を持った。図書館に鍵をかけ、鍵を所定の場所に返す。そして小走りに魔法ギルドを出た。
 外は積もってこそいないけれど、ちらほらと雪が降っている。吐く息が白い。暗くなる時間も早くなって、既に薄暗かった。
 少し歩いて、商店街に向かう。人は疎らだった。その商店街の中にある服屋の前で足を止める。中が見えるようになっていないため様子はわからないが、かけられた札は「OPEN」の表示のままだ。それを確認し、裏にまわった。
 裏口の側の壁に寄りかかる。手袋をしていても冷える指先に息を吐きかけた。
「ありがとうございましたっ」
 そんな声と、カラン、という澄んだ鐘の音が続いて聞こえる。さらに待っていると裏口の扉が開いた。
「あ」
 薄紅色の髪をした少女がユーンを見て目を見開く。その瞳は今は隠れている空の色をしていて。
 ユーンはフッと目元をほころばせた。少女に向けて片手を上げる。
「待っててくれたの? 今日、寒かったのに……」
 雪色のコートを着た少女はぱたぱたと駆け寄ってきて、ユーンを見上げる。
「ん。最近日が落ちるのが早いし、危ないだろ」
「そりゃ、そうかもしれないけど……」
「それに、シィズはこの間この仕事をはじめたばっかりだから、不安かもしれないって思ったんだ」
 ユーンが微笑んで言葉を続けると、少女──シィリアーズは困ったように目線をさまよわせた。
「これぐらいなら俺は平気だし──もちろん、シィズが嫌ならもうしないけど」
「そんなことない!」
 緩やかにシィリアーズの希望を聞こうとするユーンに、咄嗟に強く否定する。遅れて自分のしたことに気づいて、顔を赤くした。
 俯いたまま、口を開く。
「ユーンに会えるから……嬉しい」
 シィリアーズの言葉に穏やかに口角を上げ、ユーンは手を差し出す。その手にシィリアーズが手を重ねて。
 そうやって、二人で手を繋いだまま、雪道を歩いていった。

 愛しいと思うから、だから、なおのこと。
 認められたくてたまらなかった。
 貴女が誇れるように。

10:いつになったら


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