仕事を始めて少し経てば、仕事にも慣れてくる。
ユーンはいつもの通り図書館で仕事をしていると、今日は非番らしいスオが本を借りに来た。借りたい種類を聞き、その本の場所まで案内する。
「お、これこれ。ありがとよ。大分なれて来たんだなぁ、お前も」
「ん。まぁ、元々図書館はよくいたしな。お前だってなれたんだろ?」
本を受け取りニッと笑ったスオに、言葉を返す。スオはまぁな、と首肯した。それから眉を寄せる。
「問題はディッファだ。聞いてるだろ?」
「ああ」
スオの言葉に兄から聞いた言葉を思い出し、苦笑した。
冒険者になり、腕を磨いているディッファだが、どうやらパーティを組んだ面々とことごとく相性が悪かったらしく、既に2回ほど問題を起こしていた。
酒場に登録し、依頼を受けた面々とパーティを組んで仕事を行う、という形式はどうもディッファにはあっていなかった。とはいえ、意図的に組んだパーティも、相性の問題で解散してしまっている。
今はユーンの兄・シーンが所属するパーティで仕事をしているが、同じ実力の相手と組むほうが無理が無いのだ。
難しい顔でスオがばりばりと頭をかいた。
「ありゃ不味いよなぁ。一応、今度はおれも行くけどよ……」
「……ん? そうなのか」
初めて聞いた情報に、ユーンは目を瞬く。その様子にスオは怪訝な様子になり、だがすぐに思い至ったらしく一つ頷いた。
「そういえば決まったのはついさっきだったか。ディッファと同年代の盗賊、ってことで俺がいくことになったんだ」
「ああー、なるほど。気をつけていけよ」
冒険者は危険な仕事だ。元々父親と兄、それにディッファのことを心配してはいたが、これでスオも心配の対象になって、するりと忠告をかぶせる。
「おー、わかってるわかってる」
スオはヒラヒラと手を振って。本の貸し出しを済ませ、去って行った。
自分も行くことができれば、心配も減るのかもしれないと思いながら、それを見送る。
──何もできることはないのかもしれないけれど。
◇ ◇ ◇
三人でパーティを組まないか、と言われたのはそれから少し経ったころだった。
「……俺も、冒険者に?」
「そうだ。ユーンも毎日仕事しなきゃいけないって決まってるわけじゃないだろ? 都合のいいときだけでいいから、オレたちと一緒に冒険者をやらないか?」
目を輝かせる勢いで、テーブルを叩きながらディッファが言う。今日は話がある、と彼に言われて冒険者の酒場に呼ばれたのだ。
少し離れたところで、スオがくすくすと笑いながら立っている。
「おれと一緒に冒険したのが楽しかったんだと。で、ユーンも一緒なら楽しいだろうって」
「そうだ。冒険者は仕事で、オレは立派な剣士になるのが目標だけど、仕事でも一緒にやったら楽しいのはいいと思うんだ」
熱く語り始めたディッファを見、ユーンは困ったように笑った。
「俺はディッファみたいに前に立てない。スオみたいに魔法が使えるわけじゃない。後ろが二人で前が一人、っていうのは無茶じゃないのか?」
父親と兄のパーティ構成を思い出しながら、自分にできることを考えた。苦い気分が広がる。
特別に得意なことも、できることもない。自分が、いる意味は──……。
「そうか……じゃあ、三人じゃ少ないだろうとも思ってたし、誰か見つけるまで誰かと一緒にやればいいんだ。それなら大丈夫だろ」
遠まわしに断ろうとして、だがディッファは諦める様子もなく言葉を並べた。もうディッファの中では決定事項らしい。
「俺は何も出来ないんだぞ」
「ユーンはさっきみたいに色々知ってるじゃないか。何もできないってことはないだろ?」
「できない。兄貴やお前見たく前に立てない。お袋とかスオみたく、魔法はつかえない。何も出来ないだろ。足手まといになるだけだ」
「前に立てなくて魔法がつかえないと、足手まといなのか? オレはそうは思わないけどな」
きっぱりといえば、ディッファは不思議そうな顔をして自身の意見を返してくる。そうされてしまうと、押し通すこともできなくなってユーンは口をつぐんだ。
「ユーン、諦めろよ」
スオが笑いながら口を挟む。
「おれ達はお前が何かできるからパーティを組みたいんじゃない。ユーンがユーンだからパーティを組みたいんだ」
「そうだ」
スオの言葉に、ディッファが深く頷く。ユーンは二人の顔を交互に見た。
「ユーンはユーンだ。他の誰を入れるより、ユーンとオレは冒険したい」
「これでも何もできない、って思うなら、何ができるのかおれ達と一緒に探してみようぜ」
「そうだ! それがいい!」
そういって友人達は笑った。
結局、冒険を始めたとしても、ルードと見られることは変わらず、傷が痛むこともあったのだけれど。
それでもこのときに、自分が自分でいいのだと思えたから。
だから、その傷が深くなることはなく。
前を向いてゆくこともできたのだ。