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初夢 何でこんなことしてんだろ…。 おれは何十回目かのじもんじとうってやつをしていた。目の前には紙ねんどともう形を作ってあるものが三セット。おれはこれをあと七セットも作らなきゃだめだった。 ことの始まりは数時間前。おれがオフロから上がってきたときだ。 ぬれた髪をてきとうにふきながら、居間を通ると西月が何か作っている。おれはふしぎに思ってのぞいてみた。でも見ても何をやってるのかわからなくて、首をかしげる。 「なにやってんだよ、西月」 「もう上がってきたんですか、裕樹。いや、今年のお正月にお店に出す商品を作ってるんですよ」 「……お店のものって西月が作ってんのか?」 「これはこの店だけの限定品なので、手作りしているんです」 西月は楽しそうにわらって、指先を動かした。紙ねんどがふにゃふにゃと形を変える。 こいつ、西月とはじめてあったのはだいぶ前だ。親父にしょうかいされた。で、なぜか今年の夏休みから西月の家に住んでるけど、西月のことはさっぱりわからない。 ふつうに高校生のかっこして出かけていくけど、右目につけてるものくるってやつは外さないし。おれが小学校から帰ってくるともう店あけてたりする。おれは友だちと外であそんでくるけど、西月はあそんだりしないみたいだし。だからなんとなくおれも友だちをこの家につれてきたことはない。 ときどき近所のおばさんに「西月くんといっしょに住めるなんて、いいわねぇ。おばさんも西月くんのいとこになりたかったわぁ」なんてことを言われるけど、やっぱりよくわかんねぇ。おれと西月がいとこってことになってるのもナゾ。いとこじゃないのに。 で、今年が西月とすごすはじめてのお正月。西月がなにか作ってるのもはじめて。 だからじっと見てたんだけど……。 「……なぁ、西月」 「なんですか?」 「それ、何」 「知りませんか? 一富士、二鷹、三茄子。この三つを初夢に見ると、その年はいいことが起こるそうですよ」 「え、じゃあそれ、ふじさんとタカとナスビ? うっわーへたー」 なんども言うけど、おれは西月のことをよくしらなかった。だから、ぶわっと怒ってるかんじが西月から出てきて、おれは動けなくなる。え? 怒った? おんこう(おんこうってなにかしらないけど)な西月が怒った??? 「私の一富士、二鷹、三茄子にケチをつけるなら、裕樹が作ってくださいね」 「え」 「私、今日これから仕事が入っているので、お願いします。引き受けてくださって助かります」 「え」 「じゃあ知らない人が来ても絶対に扉を開けないでくださいね」 「え」 「行ってきます」 ガラガラガラ、ピシャン。おれが見ている中、西月はふすまの向こうに消えた。目の前には西月が作ったいびつなふじさんとタカとナスビが……。 こうしておれは西月のかわりにお正月にお店に出すものをつくることになった。 いや、だってさ。ふじさんがあきらかに半円でさ、タカがヒヨコになっててさ、ナスビがトマトになってたら、そりゃあ、ね。 おれが作ったのだって、じがじさんってやつするみたいだけど、西月のよりはマシ。だからせっせと作ってたんだけど……むずかしくって。また三セット。西月が出かけてから一時間たってるのに。これじゃあ今日中にできあがんないじゃんか! かべの日めくりを見ると、十二月三十日。明日は三十一日。……こんな今年のおわりなんて、いやだよー……。親父といっしょに住んでればこんなことないのに。なんで西月のとこにおれをあずけたんだよ親父ー!! 泣きそうになりながらもおれは手を動かす。こうなったらがんばってぜんぶ作ってやるんだ!!! ようやく仕事を終えて帰ってきた。私は背後の無口な気配に呼びかける。 「よければあがっていってください。お茶でも出しましょう」 「ああ」 背後の気配は無口なまま頷いたが、それでも嬉しそうな雰囲気がにじみ出ていた。わかりやすい。彼に会えるのが嬉しいのか。 微笑ましく思いながら、私は廊下を歩き、居間のふすまを開ける。と、居間の食卓の上で裕樹が眠りこけているのが目に飛び込んできた。傍らには着色まで済まされた一富士、二鷹、三茄子……。悔しいけれど、私よりも上手い。 「どうした……!」 私が居間の入り口で止まったのをいぶかしんで、無口な気配が背中越しに居間を覗いた。裕樹が見えたであろう瞬間、無口な気配はそのまま私の横をすり抜けて、眠りこけた裕樹を抱き上げる。 「ああ、寝かせてきてくれるんですか。ありがとうございます。部屋の場所はわかってますね?」 無口な気配が頷く。そしてふすまの奥に消えた。 私は戻ってくる間にお茶を入れ、食卓の上に転がっている商品を整える。ほどなく戻ってきた彼はどこか嬉しそうで、彼のほうが年上だというのに、また微笑ましく感じてしまった。 二人でお茶をすすりながら仕事の疲れを癒す。急な仕事が立て込んだので、お互いかなり疲れてしまった。 「……小学生に仕事を押し付けるな」 ぼそり、と唐突に呟かれて私は目を丸くし、それから苦笑する。 「すみません。焦っていたときに生意気なことを言われたもので、つい。まぁ、この出来をみれば、裕樹の言い分が正しいこともわかりましたが」 まだまだ私も子供ですね、と笑えば、彼はそうだな、とあっさり同意した。いや、冗談だったんですが……。 彼は一気にお茶をあおると、立ち上がる。ただでさえ長身の彼をすわっている私は首が痛いほど見上げることになった。 「もう行くんですか? 裕樹に会わずに?」 問いは首肯で返される。彼が忙しいことは私が良く知っている。引き止めることはできなくて、そうですか、と呟いた。 互いに会いたがっているのに会えない二人。ああもどかしい。私に何か出来ることはないだろうか。 ちらり、と彼の視線が食卓の上に注がれる。 「あ、湯のみは洗っておきますから、気にしないでください」 昔からある彼専用の湯のみ。鮮やかな青としろのまだらのそれを気にしたのかと思ったのだが……目が彷徨ったところみるとそうじゃないらしい。 ……ああ、そうか。私に出来ること、あるじゃないか。 クス、と笑みをこぼして“商品”の一セットを彼に差し出した。彼が僅かに目を見張る。 「よければ、どうぞ。まだ力も込めていない、ただの粘土細工ですが……裕樹の念は篭ってるでしょうね」 彼は黙って私の手の平の“商品”を受け取り、去っていった。 来年の彼の初夢は幸福なものに違いない。 それから毎年裕樹が一富士、二鷹、三茄子を作ることになる。 そして売り出されるのは九セットのみになったそうな。 裕樹12歳。「夢に見るほど〜」直後。オマケ。 |