急げ!


 パチリ、と目が覚めた。うーん。快適な朝だなぁ。昨日夜更かしした割にはしっかり眠れた気がする。
 俺は上体を起こして何気なく時計を見た。
 ……八時、二十分。

 遅 刻 だ ! ! !


もちろんこの後猛ダッシュ。期待は裏切りません。






   雑誌


 一冊の雑誌が布団の上に広げられている。ある有名バイオリニストのインタビュー記事だ。

 ……。

 ありがとうございます。妹もとても喜んでくれて。
 ──松原さんは以前、酷い交通事故にあって腕を切断されたそうですが、リハビリは辛く無かったですか?
 正直言うと辛かったです。当時は見栄を張ってこんなの平気だ、なんていってたりしましたが。
 ──ではなぜがんばれたんでしょう?
 家族の協力と周りの人々の期待と仲間達からの激励のおかげです。あと、昏睡状態だったときに見た夢のおかげですね。
 ──へぇ、夢ですか。どんな夢だったんですか?
 自然の中で動物達を聴衆にしてバイオリンを弾くんです。……我ながら、何でこんなメルヘンな夢を見たんだか。(照)でもこの夢が励みになって、がんばろうって思えたんです。いつか、自然の中でコンサートを開くのが夢ですね。

 開け放たれた窓からそよ風が吹き込んでくる。雑誌の頁がめくられる音と、葉の音、風の音が自然のハーモニーを奏でた。


一枚の絵をイメージして読んでくださると嬉し。






   湯のみ


 正月の大掃除をしていると、彼の湯のみが出てきた。私は思わず手にとって、眺めてみる。
 どれぐらい彼は来ていないだろうか。昔相棒だった彼は。
 息子にも会いたいだろうに、彼は忙しく世界中を飛び回ってばかりで、この家に来ることは無い。
「おーい西月ー? こっちはどうすればいいんだー?」
 彼の息子が私を呼ぶ。やれやれ、店の片付けはやはり私がしなければだめか。
 彼の湯のみはまた大切に食器棚の奥へとしまった。いつかまた、彼が来たときのために。


裕樹16歳ぐらい。大掃除中。ちょっと乙女入った…?