夢の宅配便


 星明りが町の電灯にかすんでいる。風もなく穏やかな日。

 俺はちらりと視線を壁に投げ、目を凝らす。だんだんと輪郭が浮かび上がってきてやがて静寂の中に潜む秒針の主が現れてきた。
 短針は数字の二へとかかっている。草木も眠る丑三つ時。
 そんな真夜中に俺がいるのはなんとも可愛らしい部屋だった。暗闇のために色を捕らえることはできないが、そこらじゅうにもこもことしたぬいぐるみが置かれている。あ、俺の部屋じゃないからな!
 この部屋の主はすやすやと寝息を立て、ベッドの中だ。あどけない寝顔を見せている少女と直接会うのは初めて。

 もうわかってるとは思うけど、俺は正規のルートでここに来たわけじゃない。こんな真夜中に見知らぬ男を部屋に入れる少女(推定七歳)なんていないだろ?
 大分遠回りしちゃったけど、あれだ。ようするに俺、相馬裕樹は人様の家に不法侵入してるわけ。不法侵入っていうと、人に見つかったら「キャー」って叫ばれて警察に通報されるあれ。しかも侵入経路はドアの次に人が出入りしやすい窓! ってそれ以外にありえないか。
 いやー、それにしても……。
 俺は自分の手を見た。闇にまぎれかけてる手には黒い手袋をはめてる。さすがにサングラスとマスクはつけていないものの、服装は黒ずくめ。こりゃあ……。
「いやぁ、ホントどろぼうみたいだよなー。いっそのこと本物になってみたり…」
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
 俺の言葉に対し、鋭く突っ込んできた声がある。振り向くと俺の相棒の西月がベランダから部屋に入ってきたところだった。
 右目に付けられている硝子が僅かな光を捉え、きらめく。太陽の下では緑がかっている長い黒髪を後頭部で結い、整った鼻に乗る片眼鏡を片手で押し上げた。
 はい。男の俺でもコイツは美青年だと思います。普段はこのフル装備にプラスして和服を着てるからもう女の子の黄色い悲鳴が飛び交う飛び交う……。今の黒ずくめの服でも十分魅力を出してるし。
 そんな美青年ににらまれて、俺は両手を上げた。
「ジョークだって、ジョーク。どろぼうじゃありませーん。宅配便でーすってね」
 ハネまくりの金髪を押さえつけている帽子のつばをつまんで会釈してみせる。
「わかっていればいいんですけどねぇ」
 西月は苦笑を浮かべ、それから真剣な顔つきになってベッドに近づいた。俺もその横に並ぶ。

 俺が見たときと同じように少女は穏やかな寝息を立てていた。西月ががさごそとポケットから四つ折りされた紙を取り出し、広げる。その紙と少女を俺は見比べた。
「間違いないだろ?」
「そのようですね」
 書類には酉島珠美(とりしまたまみ)と名前の欄に書かれている。珠美ちゃんというらしい。
 この子が俺らの不法侵入の理由。まぁ、ぶっちゃけ"仕事"なんだけど。
 そして俺の仕事について説明すると、まぁさっき俺が言ったとおり"宅配便"だ。それもただの宅配便じゃない。俺らは文字通り夢を届ける仕事をしている。……こう言うと嘘くさく、しかも逝っちゃってる人に聞こえるのは俺だけではないと思うが、事実なのだからしょうがない。
 俺と西月は夢の宅配人という職業についている。
「酉島珠美。七歳。小一っと。お届け品はNo.782の夢を一つ。うん。間違いない」
 西月の手にある書類を見ながら、勝手に確認をする。事前にお金はもらっているから間違って宅配したらお客様の信用に関わるから慎重に。
 受取人OK。年齢OK。職業OK。お届け品OK。一つ一つ確認しながら、頭の中でOKサインを出していく。そして、最後の項目。
 悪夢を見ます(見ているようです)か? no。
 よっしゃOK!!
 心の中でガッツポーズして──現実でも思わずしていた─西月を見る。
「全部OKだ!」
「それはよかった」
「んじゃ、やるぞー」
「お願いします」
 やる気がむくむくと沸いてくる。俺はそっと少女の額に手を乗せた。彼女は今どんな夢を見ているんだろうか。夢から覚まさないように優しく額をなで、瞼を閉ざす。

 キィイイイ、と音をたてて扉を開ける感覚。俺の力が部屋にあふれ、目をつぶっていても西月の輪郭を感じた。西月が俺の肩に手を置く。十分に力が俺らを包み込んだと同時に、俺は言葉をつむいだ。
「お届けものでーす。直接手渡しで」
 扉が、開く。

 一瞬体が浮く感覚を味わったのち、扉をしっかりと閉めた。瞼を押し上げれば目をつぶる前とは百八十度変わった光景が眼球に映る。
 強烈なピンクの空。鮮やか過ぎて目が痛いほどの。
「うっわー…こりゃなんというか……」
「すごいですねぇ」
 表情を歪めた俺に対して、西月は落ち着いたまま微笑む。さすが俺より経験つんでるだけある。空も大地もピンク。そこらじゅうピンクだらけの世界でも動揺を見せない。
 もちろん、全部がピンクなわけではなく、巨大なサイズの本やぬいぐるみが地面に転がっている。まるで俺らが小人になったみたいだ。遊ぶためなのか、普通のサイズのおもちゃも少し見受けられる。
 俺は近くのくまのぬいぐるみ(特大)に触れてみた。なんだか妙にもはもはしているぬいぐるみだ。
「なんかてんけー的な女の子の夢って感じ」
「ここまで極端なのは私も初めてです」
 のほほんと西月が笑う。どうやらこの光景を微笑ましく思っているらしい。俺なんて何か落ち着かなくてそわそわしてるっていうのに。
 不意に西月が歩き出した。少し進んでから、(彼女を)探しに行きますよ、と俺に声をかけてくる。
 俺は落ち着かない気分のまま、西月のあとを追った。

 歩き出すとますますメルヘンなこの世界が見えてくる。積み木の城にジュースの泉。降るのは雨ならぬ飴らしく、パラパラと降ってきたときには痛い思いをした。だって雹とおなじ原理だぞ!? ちなみに西月はその時お菓子の家に非難してました。ずるいよな。
 とにかく典型的なおとぎの国、と思いきやテレビがあったり、ぬいぐるみの中に某電気ねずみがまざっていたりして、なんなんだか。 
「面白い夢ですね」
 興味深そうに辺りを見回す西月を俺は横目で見て、はぁとため息を吐いた。遠い目で空を見上げてみるも、飛び込んでくるのはピンク色。ああ、現実に戻りたい。
「あーもー疲れたー!!」
 叫んでその場に寝転がる。歩いても歩いても珠美ちゃんは見つからないし、空はピンクだし。飴の雨は殺傷能力があるぞ、絶対。
「裕樹。そんなところで寝転がっても仕事は終わりませんよ」
「歩き回ってても見つからない。おらもう疲れましただ」
「どんなキャラですか。ほらお客様第一。探しに行きますよ」
「えーやーだやーだ」
「裕樹」
「ごめんなさい」
 急かした西月にふざけて返したら、氷点下な返事が返ってきた。冗談だってば。
 すでに西月の目がすわっている。これ以上ふざけていたら噴火するのが見て取れたので俺は足で反動をつけて起き上がった。
「だれ?」
 そのすぐ後に声がして、息を詰める。若干ぼやけた声が耳に残り、西月を見れば奴は微笑んだところだった。
「こんばんは、酉島珠美さん」
 穏やかに言う。俺はゆっくりと振り返った。
 黒髪を耳の下で切りそろえた少女が立っている。瞳は大きく、まだ幼さを残している。クリーム色のワンピースを着ていて、足ははだしだった。両手で抱えたうさぎのぬいぐるみをぎゅうと抱きしめる。
 間違いない、写真で見た酉島珠美だ。
 少女は俺らを見比べ、きょとんとした顔のまま首を傾げた。そして、西月と俺を順々に指差しながら言う。
「てんしさまと、げぼく?」
 かちん、と思考が固まった。遅れて怒りがわいてくる。下僕って…まぁ意味わかってないだろうけどさ。
 ちょっとショックだ。
 固まってしまった俺を通り越して西月が少女の元へ歩いていった。腰と膝を曲げ、目線を合わせて微笑みかける。
 確かに、さらりと流れる髪も優しげな笑みも宝石のような瞳も天使と呼ばれるにふさわしいものだろう。俺のことが下僕に見えるかどうかは置いておいて。
「どうして、私が天使だと?」
「だって、きれい」
 無表情だった少女がほんの少し頬を赤くし、恥ずかしそうにぬいぐるみに顔を埋める。
 ありがとうございます、と礼を言ってから、西月はポケットを探った。何かを取り出し、少女の目の前に右手を出す。
「これはお礼ですよ」
 小さな煙と共に西月の右手に小さなピンクの花が現れた。少女が目を見開く。西月は花を少女の髪に刺した。
「やっぱりてんしさまなんだ。すごいなー」
 少女は嬉しそうに笑う。
 俺はあの花のタネをしっている。種子じゃないぞ。手品のタネみたいなもの。かといってあれは手品ではない。
 符、という力を乗せる紙切れがある。西月はあれをポケットに入れていて、それに力を込めて花にして見せたんだ。夢の中だけで可能な芸当だけど。
「そうだ。一人ぼっちでつまんなかったの。いっしょにあそぼう、てんしさま」
「え」
 少女の誘いに、俺は西月を見た。俺らの仕事は宅配便。ここには荷物を届けに来ただけで──。
 さっさと仕事を済ませて帰ろうと西月に念を贈るが、彼はこちらを見もせずうなずく。
「いいですよ。何して遊びましょうか」
「こっちー」
 少女が西月の手を引いた。控えめに笑いながら、西月を引っ張っていく。
 そういえば、と俺は書類の備考欄を思い出した。『両親共働きのため、一人の時間多し。愛情は受けているが寂しさはぬぐいきれないもよう』。西月の整った字で書かれた一文。西月もそれを思い出していたのだろうか。
 しょうがないな、と俺は肩をすくめた。
 少しだけ、つきあってやるか。

 夢の中では時間の感覚はないに等しい。感じている時間は本物の時間じゃない。
 かくれんぼや積み木、ボードゲーム、テレビゲームと長い間遊んだような気がした。西月も俺も少女に付き合って、奇想天外なこの世界を駆けずり回る。
「えへへ、うれしーな。いっしょにあそべて」
 大分打ち解けてきたのか、少女が満面の笑みを浮かべた。どこへいってもぬいぐるみは持ったままだ。
「たまみね、──なのに一人なのはいやだったの。だからうれしい」
「へ?」
「あ、えほんよんで、てんしさま! 今もってくるから」
 ピンクの葉っぱをつけた巨木から軽々と飛び降り、少女は走っていった。いやー、夢の中だとなんでもありね。って、そーじゃなくて。
「さっき、何て言ってた?」
 何故一人が嫌だったか、理由の部分を聞きそびれてしまって、俺は横の枝に座っている西月に問いかける。すると西月は険しい顔をした。
「私も聞き取れませんでしたよ。さっきの理由は。どうやらそこだけ音が抜けていたようです」
「んなことできるのか?」
「ここは珠美さんの夢の中ですよ。本人が望めばどうとでもなります」
「そっか。じゃーよっぽど言いたく無いんだな」
「内容については推測できます。プレゼントもプレゼントですしね」
 今度は苦笑を浮かべる西月。
 プレゼント? おそらく宅配物のことだろうが、そこから内容が推測できるのか? ナンバー七百八十二のプレゼント? 番号は書類を見て覚えているが、内容はさっぱり思い出せない。
 そうでなくても番号は一千以上ある。全部暗記できたら、学校のテストでもいい点取れるのに。あ、俺言ってなかったけど健全な高校生だから!
 と、そこへ少女が絵本を持って戻ってきたので、思考を中断する。
 少女が巨木の真下まで来たのを視認し、西月はためらいもなく飛び降りた。
 ……俺、どうやって降りようかな。あはは!

 結局絵本一冊分かけて地上に降りましたとも! 何度か手滑らせて落ちそうになって慌てたよ! どうせ夢の中だから大丈夫だろうけどさ!!
「てんしさま、えほんよむのじょーずだね」
「そうですか?」
 俺の気も知らずに、二人はのほほんとしている。むーなんかむかつく。俺は床にへたれたまま二人を見た。
 西月が少女を膝の上に乗せて絵本を読んでいる。少女は食い入るように絵本を見つめており、物語が進むに連れてころころと表情を変えた。
「めでたし、めでたし」
 おとぎばなしの終わりの定番文句が西月の口から出される。少女はほぅと息を吐いてうっとりした。ぬいぐるみを抱きしめる。
「よかったーおひめさましあわせになって」
「そうですね」
「たまみも今はしあわせなんだ」
 あーよかったなー。視界に入れないまま、声にも出さずに心の中だけで言う。
「本当に?」
「…え?」
 だから、西月から発せられた彼らしくない言葉には耳を疑った。はっと二人を見る。
 西月は少し切なげな笑みを浮かべていた。
「“今”の幸せは本当の幸せですか? ……夢の中の幸せが、本当の幸せですか?」
 少女は大きく目を見開き、それからぬいぐるみに顔をうずめる。
 言われた言葉は直球で、しかも少女は幼いながら理解力がある。西月に言われた言葉の意味はわかるはずだ。だが少女は何もしようとしない。
 西月が目を細めた。
「あなたはこれが夢だということに気づいていますね。それに私が天使だとも本当は思っていないのではありませんか?」
 俺はじっと少女の様子を伺っていた。少女は困惑した表情でぬいぐるみを抱きしめ、だがやがて顔を上げる。しっかりと頷いた。
「これはゆめだよ。たまみ、しってるもん。だからおにいちゃんはホントのてんしさまじゃないの」
「夢だから?」
「そう。でも、おにいちゃんがだれでもよかったの。いっしょにあそべたらそれで……」
 でも。と少女は言葉を濁す。少女の表情が歪み、涙がぽろぽろ流れた。
「きょうはおかーさんとおとーさん、いっしょがよかった。だれともあそべなくていいから、いっしょがよかった。だって、だって……」
「今日は“誕生日”だから」
「ゆめのなかじゃ、おかーさんもおとーさんもいない。たまみ、一人ぼっちだよぉ……」
 嗚咽を漏らし始めた少女の頭を西月が撫でる。俺はその光景を見ながらゆっくり近づいた。俺に気づいて撫でるのをやめた西月にかわって、ぽんぽん、と少女の頭を叩く。
「一人じゃないぞ。天使もお袋さんも親父さんも皆いる」
「あったこと、ないよ?」
「あったことないからっていないとは限らないだろー。お前があきらめたら出てくるものも出てこないぞ」
 俺が口角をあげて見せると、少女は涙をぬぐいつつうつむいた。
「ゆめであえても、おきたらいないよ…」
「それはわからない。起きたらいるかもしれないぞ」
「いないよ!」
 ムキになって言い返してくる彼女に、俺は乱暴に頭を撫でる。そう簡単に言い切るなよ。奇跡ってのは起こすもんだぞ。なぁ、西月?
 俺の意図を察して、西月が少女に微笑みかける。……俺がやってもあんま効果ないんだよ、これが。
「これは夢です。あなたは何でもできます。だけど、夢じゃなくてもできることはたくさんある」
 西月は彼女の手を握った。
「“私達”が天使に会わせてあげましょう。あなたの夢の中で、私達が。この意味はわかりますね?」
「たまみのゆめなのに……?」
 少女は西月の言っていることがわかったようだ。ここは彼女の夢の中。彼女自身が法律と言ってもいい。普通の人間─つまり夢の中の登場人物は彼女の予想の範疇でしか動かない。ありえないと思っていることは起こらないのが夢。あ、見てからありえねぇって思うのはまた別の話な。
 とにかく、彼女がありえないと思っていることをただの登場人物─まぁ実際には違うんだけど─の俺達がかなえようとしてるってわけ。それこそ本当ならありえない話。
 はい。ときっぱり答えた西月に少女はやんわりと首を振る。
「あえるわけ、ないよ」
「これは、夢です。会えますよ。天使に会えたなら、あなたは少しだけ信じてください。いろいろな可能性を」
「むしろ起きて何もなかったら、変える気になれ。俺らが変えて見せたんだ。お前も変えろよ」
 西月が微笑み、俺はびしっと少女へ指を突き出して笑ってみせた。二人で目を合わせ、頷きあう。西月は両手で少女の手を包み込んだ。
「「夢の届け物です(だ)」」
 息ぴったり。俺と西月の声が重なり、西月の両手の中が虹色に輝く。ゆっくり西月が両手を外すと、サイズぴったりな虹色の箱が少女の手の平に鎮座していた。
 箱を見た少女は目を丸くし、俺らを見る。
 俺らは笑みを深くし、同時に口を開いた。

「「幸せなこの日に、幸せな夢を」」

 箱のふたが自然に開け放たれ、中から風の本流が飛び出す。少女の髪がなびいた。
 風に遅れて出てきたのは天使に悪魔にお姫様に王様に竜に勇者に魔法使いに─……。あの小さな箱のどこに入っていたんだろうと思うぐらいのものだった。
 旅人は竜にまたがり、竜は空中を飛び回る。精霊と悪魔が交差し、お姫様が王子様とステップを踏む。勇者が剣をかかげたかと思えば、魔法使いはオーロラを生み出した。オーロラにのって王様が飛ぶ。はちゃめちゃな光景。
 ぽかんと見上げることしかできない少女の元に純白の天使が舞い降りる。輝く金髪にほっそりとした腕。笑みはとても優しく、甘い。
 天使に手を引かれ、少女は宙へと舞い上がる。精霊が軽く会釈し、悪魔は少女に近づいたところを王様に怒鳴られて引き下がった。王子様とお姫様が少女を誘い、魔法使いは少女の服を七色へと変える。
 少女の頬が紅潮し、甘い甘い笑みがこぼれた。
 俺らはその光景を蚊帳の外から見ている。この夢の主役はあいつで、俺らじゃない。届け物は少女の元にたどり着いた。
 賑やかになった夢の中。その音量に負けないくらい大声で俺は叫んだ。
「A happy birthday!」
 つたない英語の発音が響く。少女がこちらを振り向き、何かを言った。声は聞こえないが、口の動きで何を言ったのかを確信する。
「No.782の夢、確かにお届けいたしました」
 西月が静かに言い放ち、礼をした。ぐにゃりと俺らの周りの空間が歪む。
 仕事完了。これより帰還しまーすってね。

 目の前にそびえたつは高層マンション。上を眺めれば眺めるほど首が痛くなるその建物の前で、俺らは上を見上げていた。
「あ、点いた」
 見つめていた部屋の電気が点いて、俺は思わずつぶやく。
「どうやら、お母さんとお父さんは帰ってきたようですね」
「そうだな」
 少女はもう寂しく無いだろ。自分でも何かができるんだってわかっただろうし。
 俺はあくびをかみ殺した。瞼がずり落ちてくるのがわかる。
「もう帰ろーぜ。ねみー…」
「そうですね」
 ふふ、と西月が笑った。
「寝坊しないようしないといけませんね、裕樹」
「うっわ、それ言うなって。あーあ。明日は平日だし。学校あるんだよなー……」
 夢の宅配人も楽じゃないぜまったく。

 ぼやきながら、俺らは街灯の下を歩いていった。


裕樹17歳。仕事に慣れてきた頃。オマケ