ユーンが目覚めたときには、丁度シィリアーズが側にいるときだった。
ディッファと共に倒れているのをシーン達に見つけられたユーンは、その後、すぐに病院へと運ばれ、治療を受けたのである。
だがなかなか目を覚まさず、三日目の今日、シィリアーズがユーンの手を握って側に着いていた。
ユーンは静かに瞼を上げ、シィリアーズの姿をその目に映した。
「ユーン!」
「ユーン!?」
思わず歓喜の声を上げたシィリアーズに、気を利かせて外にいたシーンが荒っぽく扉を開けて飛び込んでくる。
目を覚ましたユーンは少しぼんやりとしていたが、やがて自分の身に起こったことを思い出し、掠れる声で尋ねた。
「……でぃっふぁ、は……」
「ああ……血が足りなくて、色々あったが、今は療養中だ」
シーンがどこか言い辛そうに説明する。その隣でシィリアーズはよかった、と繰り返しながら泣いていた。
「りょうよう……」
「やっぱり、蘇生されたからな。……それより、お前のほうがなかなか目が覚めなくて心配したんだぞ?」
短く話題を切って、シーンはぽんとユーンの頭に手を載せる。そして冗談と、苦笑交じりに言葉を繋げば、ユーンが僅かに目を細めた。
「ごめ……」
ユーンの言葉に、ふるふる、と涙をためたままシィリアーズが首を振る。またユーンの手を握った。
「皆に伝えてくるから、ユーンはまた寝てろ。まだ眠そうだ」
そんなことを言って、シーンが出て行く。言われるままに、シィリアーズの体温を感じながら、ユーンは眠りに落ちた。
頭の片隅で、ディッファのことを気にしながら。
◇ ◇ ◇
ディッファについて詳しいことを聞き出したのは、その次にシーンに会ったときだった。見舞いに来たシーンに対して、言い辛そうな様子も気にせず問いただしたのである。
弟に珍しく容赦なく問いただされたシーンは、ついにディッファのことを洗いざらい話す羽目になったのだ。
蘇生に時間がかかったせいで、今までどおりに動けないのだと。
それに蘇生したからといって怪我がなくなったわけではなく、一番大きな致命傷になった傷を縫い、その後無理矢理動いたときにできた傷も縫い、ほとんど全身が包帯だらけになっているらしい。
やがてユーンが動けるようになって見舞いにいったときも、まだベッドから出られずにいた。
「お、ユーン、動けるのか。良かったな」
そういって笑うディッファに、すまない気持ちが広がる。聞いて、目にして。だがその気持ちを口にすれば否定されることもわかっていて。
「早く治ると良いな」
苦笑気味に、そういうことしか出来なかった。
病院では時間がある。母親が本を持ってきてくれたが、それを読む気にもなれず、ひたすら考えてばかりいた。
一番考え易いのは夜だ。昼には、誰かしら見舞いに来たり、外の音が聞こえてきたりと集中できない。心配してくれるのはありがたいが……ユーンは今、とてつもなく一人になりたかった。
夜、目を閉じて眠ろうとするとディッファが死んだときの光景が鮮やかに蘇る。見ているしかなかった自分に、歯噛みする。
「もっと、俺が強ければ……」
ほとんど音にならない言葉を吐いた。
(俺が弱いから、ディッファは一度死んだ。俺が戦えれば──……守られてばかりで、守れなかった)
こんなの、ただの足手まといだ。
不意に、何かがわかったような気がしてユーンは息を呑む。
「兄貴なら……、リーンでも……」
剣か魔法を使えれば、こんなことにはならなかったに違いない。他の家族なら、こうならなかったのは確実だ。
自分だから、そうなってしまった。
暗闇の中で、ユーンはくしゃりと顔を歪めた。自嘲の笑みが自然と浮かぶ。
「ルード家の面汚し、か。……ぴったりだな」
周りから言われていた呼び名。今に見ていろ、と思っていたのだが、いざこうなってみれば、その通りだと素直に思う。
ルードの名にふさわしいかふさわしくないかではなく、ただ、家族より出来ない自分に、その呼び名はぴったりだった。
そしてそのことが、悔しい。
強くなりたい。
眠れぬ夜に、ユーンはそう強く思い、決意した。
もう二度と、同じようなことは起こさない。