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 ハセの町。クレにある港町で、あまり大きくないが、それなりに賑わっていることで有名な町である。
 俺も昔、爺と旅をしている時に何回か訪れたことがある町だ。
 ただ、今回は爺ではなく、冒険者仲間のラングと一緒に訪れたのだが。
 俺とラングを乗せた船は、日が昇ってから大分経った頃にハセの町に到着した。
 船を降りて、軽く辺りを見回す。木材で立っている傷んだ家々と活気のある人々が目に付いた。
「ふぅ、やっと着いたか」
 肩を軽く回しながら、後から降りてきたラングに目をやる。
 ラングもハセの町を軽く見回してから、
「ん、長かったねぇ」
「で、これからどうするかな。特に目的も、目的地もないしな」
「そうだねぇ。適当に見て回って適当に泊まる感じ、かなぁ」
「んじゃ、今日はこの町で宿でも取って、情報集めとしますか」
 ラングは軽く微笑ながら、
「だね。情報収集は大事だ」
 俺とラングは横に並びながら通りを歩く。
 旅人がこの町を訪れるのは日常茶飯時なようで、住民は誰も俺達に気を止めない。
 ま、そちらのほうがこちらとしてはありがたいがね。
 俺とラングは適当に目に付いた宿屋の戸を開け、中に入る。
 中には、中年のおばさんが居り、掃除をしているところだった。
 俺とラングを見たおばさんは柔和な笑みを浮かべ、「冒険者の方ですか? 本日はこちらにお泊りですか?」と聞いてきたので、適当に返事をしておく。
 宿帳に記入し、二人部屋の鍵を貰い、二階へと上がる。
 俺達が泊まる部屋はごく普通の部屋だった。
 適当に荷物を置き、部屋を出て、宿を後にする。
 ラングと町から出ないという約束をし、別れて情報収集をすることになった。
 昼に、宿屋の近くにあった酒場で落ち合う約束も忘れずに。

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 時刻は昼。
 時間になったので集合場所にしていた酒場に俺とラングは来ていた。
「で、色々と話しを聞いてきたが、特に変わった事は無かったな」
 食べながら喋る俺と、
「そうだねぇ。大きな事件は特になし、っと……」
 ちょこちょこと合間に食べながら喋るラングであった。
「まぁ、俺達が大きな事件だと思うものでも、ここではあまり騒がないかもな。流石に戦争ともなれば別だが……」
「うんうん、あんまり人にも話さなさそうだしねぇ〜」
 既に食べ終わった俺は、飲み物を飲み干す。
「で、これからどうする? これ以上大した情報もないだろうし」
 少し遅れて食べ終わったラングが口を開く。
「どうしよっか。とりあえず今日はもう宿を取ってるから……適当に打ち合わせでもする?」
 一旦間を置いてから、声を潜めて、
「何かあったときの対策とかね」
「……そうだな。んじゃ、宿に引き上げるか」
 代金を支払ってから酒場を後にし、すぐさま宿へと足を向ける。
 部屋に入り、俺はベッドに、ラングは椅子に腰掛けると俺が口を開く。
「で、まずは目的地を決めようか」
「次にどこにいくか?」
 当然の疑問が返ってきたので、頷きながら、
「内容も無しで旅をするのもどうかと思うしな。例えば……俺なら遺跡とかな?」
「んー、ぼくなら行ったことのない街か、芸の盛んなとこだけど……」
 軽く考える仕草をしてから、軽く口を開く。
「とりあえず、遺跡でも目指すかい?」
「んじゃ、まずは遺跡な。……実はこの町から北に行った所に遺跡があるようなんだ」
「へぇえ。そうなんだ」
「明日の朝一でそこに向かおうか。少しばかり長旅になるけど」
「じゃあそうしよっか」
 とりあえず、目的地は決まったな。後は、それ以外の事を決めるか。
「で、イザという時の為の対策だが……具体的な事は決められないな。どうしたものか」
「うーん……とりあえず何かあって戦えそうなら戦うとしても、逃げたほうがよさそうならダエグは気にせず逃げるって感じかな?」
 おいおい、俺だけ逃げてどうするんだっての。ラングを見捨てるなんて死んでもごめんだ。
 俺は軽く首を横に振り、
「俺が逃げちゃ駄目だろ。俺が時間を稼ぐから、ラングが逃げてくれ。エオーも連れてな」
「君が狙われてるのに君が逃げないでどうするのさ。それに逃げたほうがいい状況なら、もう既に一人でも時間稼げない状況なんじゃないかい? 皆で一斉に逃げて──まぁダエグが一番追いかけられるだろうけどね。ぼくは足が遅いから、散開したほうがいいと思うんだよねぇ」
 ふむ、それもそうだな……。
 少し迷った俺はゆっくりと喋る。
「……あぁ、そうだな、そうするか。だけど、その時になったらエオーはラングが預かってくれないか?」
 ラングは俺の言葉に頷き、
「うん、その時には預かるよ。で、まぁ散開したあとだけど……エオーをぼくが預かってるなら合流できるね」
「あぁ、エオーがいれば問題なく合流できるだろうな」
「じゃ、大丈夫ってことで」
 後は特に話し合うことはないかな? 探せばあるかもしれないが、パッと考えて思いつかないならそれは大した事じゃないのだろう……。
「こんな感じ、かなぁ〜」
「そんな感じだな。後は臨機応変で」
「だね」
 頷くラング。
 その後、俺達は遺跡の位置やらなんやらで夜まで騒いでいた。

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 翌日。
 俺とラングはハセの町を出て、北に向かって歩を進むていた。
 現在は異様に高い木々が大量に存在している森に居る。フォレスティアかっての。
「ふぅ、流石にキツイな……大丈夫か?」
 木の根が作る自然の道。
 こういう道を歩くのに慣れている俺はあまり疲れないが、ラングはどうだろうか。
 俺の後ろを歩いていたラングの声が聞こえてくる。
「ん、まだへーきかなっ」 
「ならいいがな」
 笑って喋る俺に、ラングが質問してきた。
「まだまだ遺跡まではかかるのかい?」
「あぁ、後小一時間は掛かるかな?」
「ああ、まだかかるんだねぇ」
「まぁ、気長にいこうさ」
「そうだね」
 などと会話をしていた俺とラングに頭上から声が降りかかった。

「気長に、何処に行くって?」

 その声は野太く、何度も聞いた事のある声だった。
「ッ!?」
 俺は反射的に動きを止め、横目でラングに視線を向ける。
 ラングは何時もと変わりない表情だったが、自然の動作で袖に筆を隠し持っていた。
「よぉ!」
 髪の長い男性。瞳の色は紅かった。
 名前はフワワ。
 いや、正確には名前じゃない。組織内の呼び名……記号に近い。
 そして、組織の中でもトップクラスの幹部、エニアゴンに属している。
 フワワは20メートル以上もある高さの木の枝に器用に立ち、片手を上げて挨拶をしてきていた。
「やっほ♪ 木の上から登場かい?」
 ラングが明るく話しかける。しっかりと警戒している様子だった。
 俺は、ただ黙って奴を睨みつけることしか出来ないというのに……。
「あぁ、探し物は高い所の方がいいからな」
 と言いながら飛び降りる。
 数秒後、地面に勢い良く落ちると地面に亀裂が走る。
 しかし、奴自身には何事もなく、ケロッとしていた。
「ああ、確かに見つけ易いだろうからねぇ」
 そんな奴に、ラングは笑顔を浮かべつつ返事をする。
 俺は反射的に槍を構えて戦闘態勢を取っていた。
「で、見つかった訳だが……お前さんには用がないんだ。だから消えてくれるかい?」
 何か挑発的な態度でラングに喋りかける。
「ああ、君は用がないだろうねぇ。だけどぼくはここから離れる気は無いのさ」
 しかし、ラングは笑顔のまま、さらりと言った。そして、筆をしっかりと持ち直している。
「そうかい? 一応忠告はしたぜ? これでも俺は優しいからな」
「それはそれは、ご忠告どーも」
 ヤバイな……最初から殺る気満々じゃねえか。どうする……。
「んじゃ、久しぶりに暴れるか!!」
 姿勢を低くし、両腕を大きく後ろへと回す。
 やろ!? いきなり全力を出す気か!?
 反射的にラングの前へと出ようとした俺だったが、別の声によって動きが止まってしまった。
「待てフワワ! こんな雑魚共相手に力を使う必要はない!!」
「おや」
 この声は……。
 俺とラングは後ろを振り向く。そこには剣士と分かる格好の、細身の男性が立っていた。やはり目は紅い。
 エニアゴンのニヌルタか、くそ。
 よりにもよってエニアゴンが二人も……こいつはヤバイな。
 ラングは常の態度のまま警戒をしているな。流石に俺と違って動揺はしない、か。
 ニヌルタは礼儀正しい態度で口を開く。
「すまない。仲間が失礼をしたな」
 それに笑顔で応じるラング。
「いやいや、気にしていないとも」
「そうか……では改めてお願いしよう。私達が用あるのはそれだ」
 と言って、ニヌルタは真っ直ぐと俺を見つめてきた。
「君には危害を加えるつもりはない。だからこの場は引いてくれないか?」
 くそ。奴と俺との距離は……いや、フワワも放ってはおけない。くそ。
 ラングが息を吐いて口を開く。
「それ、ってねぇ。ぼくは引かないよ? ダエグになにかするなら──ぼくの敵でもあるからね」
 そして距離と測る。
「そうか……ではこうしよう。ダエグ。君が大人しく捕まってくれれば彼には手を出さない。それでどうだ?」
 野朗。そういう手で来るか。
 ラングの力は信じられる。だが、相手が相手だ。ただではすまないだろう。
 俺はただ、黙ってニヌルタを睨むしかできなかった。
「ははは」
 そんな事をしている間に、ラングが笑いだし、スッと表情を消してから呟く。
「それはふざけた取引だねぇ……」
「我々は真面目だ。それに……君は今の実力で我々に勝てるとでも?」
 その言葉にラングは軽く肩を竦めて見せる。
「さあて? 勝てるか勝てないかが問題なんじゃない。譲れないってことが問題なんだよ、この場合はさ」
「……そうか、分かった。君にも何か覚悟があるのだな。では、恨まないでくれよ?」
 ニヌルタはゆっくりとした動作で腰に差していた剣を抜く。
 まるで氷の様な剣を構え、何時でも良いぞという目つきで挑発をしてきやがった。
「ああ、別に恨まないとも」
 対するラングも構えた。
 黙っていたフワワも嬉しそうに構え、この場に居る全員が戦闘態勢を取った。
 そこへ、場違いとも思える口調で制止の発言が飛んで来た。
「お二方。少しは落ち着いてください」
 そこへ、細長い杖を手にした瞳の紅い男性がやって来た。
 奴は――モロクか。
 また厄介な要素が増えやがった……仕方無いな。
「ラング、俺が隙を作る。エオーを連れて先に逃げてくれ」
 と、俺はラングにだけ聞こえる声で話す。
「おやおや。また増えた」
 息を吐きながら、さり気ない動作で俺からエオーを預かる。
「何故お二方はそう血の気が多いのですか? 少しは冷静に考えて下さい」
 その言葉にフワワは不満雑じりで口を開く。
「んだよ、モロク。何かあるってのか?」
 反対に、ニヌルタは構えていた剣を下ろし、モロクの言葉を待っている。
「ダエグ殿が逃げないように彼も捕まえておくのがベストでしょう。尤も、最低でも例の物を回収すればいいのですが……」
 エオーを預かったラングがタイミングを見計らっている。後は俺が隙を作るだけだな。
「っち、そんな面倒な……」
 戦い好きのフワワからすれば、標的意外を殺さずに回収というのが嫌なのだろう。厄介この上無いな。
「了解した」
 反対にニヌルタは文句も言わずに従う。再び剣を構えると足を一歩、前に出す。
「……やれやれ。捕まる気もないのだけれどね?」
 軽く言葉を発しながら、それでも油断せずに距離を取るラング。
 俺も槍を構えたまま、再び距離を測る。
 ゴバ! という激しい音が後ろから響く。
 フワワが接近してきた音だ。
 俺は一瞬どう動くか迷ったが、ラングは迷わずにフワワの相手に回った。
 くそ、戦闘は避けられないか……。
 俺は背後でラングが戦っているのを感じながら、前方でゆっくりと距離を詰めてくるニヌルタを見据える。
「行くぞ。言って置くが、逃げられると思うなよ?」
「こちらとしては逃げたいんだけどね」
 俺とニヌルタ、お互いが前に突撃をする。
 槍を鋭く二回、前に突き刺す。
 対するニヌルタは二回とも剣で受け流し、更に俺との距離を詰めるべく前に跳んで来る。
「全力を出すつもりは無いが、手加減をするつもりも無い! お前の様に剣を捨てた者が私に勝てると思うなよ!!」
 叫んだニヌルタの剣が横薙ぎに振るわれる。
 それを空中に飛んで避ける。
 相手が剣を振るった先が一瞬にして凍りつく。凄い威力だな。
 空中で、それも相手の上を陣取った俺は槍を数回、ニヌルタに向かって繰り出す。
 が、ニヌルタはそれを横に跳んで回避し、一旦体勢を整えてから剣を上段から振り下ろした。
 俺は全力で横に跳び、片足を軸に回転してから飛ぶように突進する。
 凍った地面を後目に槍を胴体目掛け放ったが、簡単に剣で弾かれた。
「やはり弱いな。同じ流派を学んで置きながら、剣を捨てた者はこの程度の実力か」
 後ろに跳び、距離を取ってから槍を構え直す。
「別に剣は捨てていない。それに、お前にとやかく言われる筋合いは無い筈だが?」
「だったら何故剣を持たない? 怖いのではないか、剣を持つのが」
「……お前に関係あるのか?」
 ニヌルタの剣が鋭く落ちてくる。
 俺は槍の長柄でそれを防いだが……
「ッ!?」
 右肩から左脇腹に掛けて凍っていた。
「我々の剣術は一人一人が違う剣術を扱う事は分かっているのだろう? 同じ型は無い、とは言い切れないが、全てが同じ型は無しと最初に言われた筈だ」
 後ろに跳んで方膝をつく。思った以上の威力だこりゃ。
「相手が知っている動きで攻撃をしてくるからと油断したのか? それとも単純に貴様が弱いだけか?」
 ダメージは……大丈夫だ、まだいける。
「単純に俺が弱いんじゃないのか?」
「……そうか。本来なら貴様を殺さずに回収する筈だったが、気が変わった。貴様を殺して例の物だけ回収しよう」
 やはり気が短いな。いや、誇りが高過ぎるのかな。
 ニヌルタを中心とした地面が凍る。
「……」
 それは、俺を通り過ぎ、ここら一帯を凍りつかせてしまった。
 痛みの走る身体で立ち上がり、槍を構える。
「無駄なことに力を使うなよ」
「関係無いな。それに、私にとってこの空間の方が戦いやすい」
「あぁ、そうかい」
 激しく剣と槍が激突し、お互いの動きが止まる。
 ギリギリと音を立てながらぶつかり合い、お互いに次の行動を取ろうとした直後、

「がっ!?」

 フワワの悲鳴と激しい物音が響いて来た。
 俺とニヌルタは反射的に距離と取り、そちらの方向を向く。
「どうじゃ? ワシカッコいいじゃろ?」
 親指を立て、歯がキラーンとしそうな勢いの爺がフワワの上に立っていた。
 ちょっと待て。一体何が起こった。何故奴が此処に……というか何でこの世に!?
「爺!! 何故てめえが!!」
「ところでおじーさん、誰? ってダエグのおじーさんか!」
 ラングが驚きの声を上げ、爺は気持ち良いほど俺を無視した。
「ワシはシルバー・オセルじゃ! よろしくの!」
 爺の出現に、それまで余裕の色を見せていたモロクが慌て始める。今まで黙って戦いを見ていたが、急いで呪文の詠唱を始めた。
「ああ、やっぱりダエグのおじーさんかぁ。ぼくはラングウッドだよー。よろしくー」
 ラングが笑顔で自己紹介をしている。
「この……くそ爺が……手前は確かにウルが……」
 爺に踏み潰されていたフワワが苦しそうに声を絞り出す。
「ん?」
 ラングに笑顔を向けたまま、手にしていた黒い槍をフワワに突き刺す。
 一回しか刺していない筈なのだが、傷口はどう見ても十箇所以上はあった。
「がああぁぁぁ―――!?」
 フワワが悲鳴を上げたが、やがてそれも無くなった。
 爺は槍を引っこ抜き、ラングに近寄り顔をジロジロと見つめながら、
「ん? お主ワシより年上かの?」
 などとほざきやがった。
「んー? ああ、ぼくはエルフだからねぇ。年上だと思うよ?」
「ほう! それは良かったの! もう少しで若造と呼ぶところだったの!」
「おお! それはよかった…のかな? ま、ぼくはどんな呼び方でも気にしないけどねぇ」
 って、俺は何固まっているんだ! 疑問が大量に湧いてきたぞ!!
「何で生きているんだ!! 手前は死んだだろうが!!」
「ではラングウッド。少し孫を守っていてくれないかの?」
「俺の質問に答えろ!!」
 近寄り、大声を上げた俺の発言を綺麗に無視した。
 ……そうだな、うん。理由は分からないが、生きているようだな。だから俺の手で引導を渡してやろう。絶対に。
「ああ、それは言われなくても」
 微笑んで頷くラング。
「という訳じゃ。ここからはワシが相手をしようかの」
 それを見てからニヌルタとモロクを見つめ、前に進み出る。
「はあ!!」
 モロクが呪文を発動させ、爺に放った。
 が、爺は槍を一振りし、その呪文を消し飛ばす。
 ダン! という音を立ててニヌルタが低姿勢で爺に突撃をした。
 ところが、爺はニッと笑ってから槍で剣を簡単に弾き、長柄でニヌルタを打ち上げ、その腹に強力な蹴りをぶち込んだ。
「ぐ!?」
 抵抗する事も出来ず、簡単に後ろへと飛ばされる。ニヌルタの身に着けていた鎧にヒビが入っていやがる。一体どんな威力の蹴りなんだ……。
 と、一瞬目を放した隙に爺は消えており、どこに消えたのかと軽く見回した俺の視界に入ってきたのはモロクは薙ぎ払い、木に叩きつけている爺の姿だった。
「こんなもんかの?」
 動けなくなった連中を見回しながら呟く爺。
 くそ、異常な強さじゃねえか……。
「おおー」
 パチパチと握手をするラング。
 爺は調子に乗って手を振り返していやがる。
 たくっ……何やってんだか―――ッ!!
「ラング!!」
「!?」
 俺はラングに抱きつくようにして、一緒に横に跳んだ。受身など考えない、全力でだ。
 ゴ! と先程まで俺達の居た場所に光の柱が突き刺さる。
 数秒の間、光の柱が地面に突き刺さり、やがてゆっくりと消える。
 何とか回避する事が出来た俺とラングは上空から発せられた声を聞いた。
「……外したか」
 背筋が冷たくなるのを感じた。
 ゆっくりと上空を見る。
 そこに、想像していた光景が広がっていた。
 巨大な龍の背に乗った、騎士の風貌をした男性がそこに居た。
 腰まで届く明るい青の長髪、澄んだ青色の瞳を持った男性だ。
「……新手、か」
 隣で体勢を立て直すために、地面に手をつけていたラングも上空を見ている。
「まさか、貴公が生きているとはな、シルバー・オセル」
「ウルか……そしてイル。エニアゴンの二強が二人そろって御出ましかの」
 流石の爺も槍を構えやがった。当然だ。こいつらの強さは他のエニアゴンとは比べ物にならない。
「ラング……流石に逃げるぞ……」
「だね。聞くだけでやばそうだ。」
 相手の様子を窺いながら、全力で逃げる為に頭を働かせる。
 最悪、ラングだけでも無事に逃がさねば……。
 と、そんな事を考えていると上空で飛んでいた龍――エニアゴンの一人、イルが降りてきた。
「……まさか、三人共やられるとは。流石は過去の大戦の英雄と言ったところか、シルバー・オセル」
 イルが口を開き、ウルがイルの上から飛び降りた。
「貴公の相手は私がしよう、シルバー・オセル。他は任せたぞ、イル」
「あぁ」
 イルの巨体がゆっくりとこちらを向く。
 僅かに、その僅かな動作を見逃すわけにはいかなかった。
「行くぞ!!」
「おうさ!!」
 俺とラングが全力でイルから遠ざかる。
 イルが再び飛ぶのには多少時間が掛かるし、ここの高い木々の所為で上空からの視界は最悪だろう。
 逃げるなら戦う前しかない。
「が!?」
 何故か、俺は呻き声を出していた。
 首を、激しく痛みの走る腹部へと向ける。
 俺の腹部から、何か、鋭い物が貫いていた。
 これは……まさか、チェルノ……。
「! ダエグ!?」
 ラングの叫び声のようなものが聞こえる。
 が、俺には返事をするだけの力が無かった。
 本来、腹部を貫かれただけならまだ意識があっただろう。
 だが、アレを抜かれてしまっては、それが在る事が普通だった俺の身体は正常を保つ事が出来ない。
 急速に意識が遠退いて行き、数秒後には俺の意識は無くなった。

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「はは、アンタは弱いね。悲しい程弱いね」
 瞼を開き、目の前に広がった光景を見る。
 目先は全て白かった。
 上半身を起こす。
 痛みが、無い。
「おーい。俺はこっちだぞ。こっち向いてくれよ」
 声のした方を向く。
 そこには、ボンヤリとして容姿がよく分からない人影があった。
「……一体、何が」
「まぁ、当然だ。理解している方が変なんだしな」
「理解?」
「ここが何処で、俺が誰で、お前がどうなったかだよ」
「…………」
「さて、まずは何から聞きたい? 俺は親切だから教えてやるぜ?」
 こいつ、何が言いたいんだ?
「お前は何者だ?」
「俺かい? 俺の名前はな……」
 人影は一旦間を置いてから、口を開いた。

「俺の名前は、ダエグ・フォン・アンスールだ」

2.白の槍使い


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