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持っていた糸が切れて、だらりと手に沿うように垂れた。大分太くなっていたはずのつながりは向こうから一方的に切られてしまったらしい。 「あー。今度こそいけると思ってたんだが……無理だったみてぇだなぁ」 ものすごく目を凝らしてようやく見えるほどの深い闇の中で、男がつぶやいた。彼は背景とどうかするほどに黒く、だがやわらかい何かに背を預けている。手に持っていた糸を放せばそれはどこまでもどこまでも落ちていった。 闇は濃い。光が強いほどに闇は濃くなる。表にある光に対する闇全てがここに集まっているかのようだった。どこもかしこも闇で埋め尽くされており、色は黒以外ほとんどない。それでも男には全てがちゃんと見えていた。 男はふぅとため息をついて上を──厳密にはそちらが上だと男が思っているだけだ──を見る。 「そう簡単にはいかない、か。そりゃそーだ」 くっくっく、と笑い、見えない光に目を細めた。 見えなくとも、男は遠くに光があることを知っていた。光を侵食するかのように男は手を伸ばし、空を掴む。ニィッと口元に狂喜の笑みを浮かべた。薄く口が開かれ、低く音が響いていく。 音は無限に反響し、闇を振るわせた。 月は隠れて 血は流る 彼は神か 悪魔か それは誰も知らない 深く濃い闇の淵で、闇の主は嗤う。 魂浮かび 獲られゆく 誰が神で 悪魔か それは誰も知らない 詩は朗々と響き、闇がうごめく。眠りについていた影がうごめき、集まっていく。 影目覚め 闇歌う 彼が神で 悪魔か それは誰も知らない 男の曇り空にも似た目だけが闇の中で光る。 光に闇は潜み 嗤う それは まだ 赤い月が、昇る。 ──誰も知らない |