≪ある愚か者の願いを≫
笑っていてほしい
向こうで
こっちで笑えなかった分
こっちで泣いていた分
先へ行った彼女と一緒に
幸せで居てほしい
あとから行くぼくと
一緒に笑っていなくて良いから
死人は笑わない
わかってる
ぼくが勝手に想像するだけ
わかってる
わかって でも 願う
信じる
向こうでは笑っていると
彼と彼女が幸せだと
こっちの彼にも笑ってほしかった
そして 否定したかった
最期の彼の姿
死人は言葉を返してはくれない
変えてはくれない
過去は変わらない
君はぼくを恨んでいたのか
そんなにも悲しかったのか
何も知らなかった
あの頃
過去は変わらない
過去を振り返っていても 今は進んでいく
過去は変わらない
だからぼくは前を見る
だけど
もし
もし
彼と話が出来るのなら──
過去の遺物
断片的に残った意思
残った意思は恨みだろう
幸せでは無いだろう
記憶の中の彼のように 笑ってはくれないだろう
それはわかっている
止められてもいる
昔のことはもう忘れた だから 今を生きていく
いつもの自分の考え
自分自身が嗤う
過去の遺物でしかない彼に願うのか
不可能なことを信じようとするのか
今を脅かしてまで
それでも
信じたかったぼくは
やっぱり ただの 愚かなヒト
笑ってほしかった
最期の彼の姿を変えたかった
過去は変わらないのに
ぼくは今を生きているのに
嘘をついて
巻き込むことも知っていて
彼が攻撃してくることもわかっていて
苦しくなることもわかっていて
これから先 ずっとずっとまた繰り返されるとわかっていても
それでも
信じたかった
そう思いたかった
馬鹿なぼく
愚かなぼく
どうせ何も変わらないと知っていて
それでも 過去に手を伸ばした
今から手を放してでも
過去に 手を
けれど手は届かなくて
当たり前のことだけれど届かなくて
憎しみの言葉と
彼の最期の思いと
また繰り返し繰り返し聞かされて
ぼくは変わらない過去を見つめる
馬鹿なぼく
愚かなぼく
手を伸ばした過去のぼくをあざ笑って
今のぼくはまた前を見る
笑っていてほしい
向こうで
こっちで笑えなかった分
こっちで泣いていた分
先へ行った彼女と一緒に
幸せで居てほしい
あとから行くぼくと
一緒に笑っていなくて良いから
ほら 愚かなぼくがいる
同じことを繰り返す愚かなぼくが──
でも
これだけは言わなくちゃ
誰にかはわからない
面と向かっていうのとは違う ぽつりと虚空へ向ける言葉を
それの受け取り手をぼくは知らないけれど
愚かなぼくの言葉を 受け取ってくれるかもわからないけれど
「ごめんね」