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 しばし開けていた自室を掃除し終わって、俺はベッドに座り込んだ。少しきしんだ、非難するかのような音が立つ。
 俺はそのまま、机の上に目をやった。空のワイン瓶と、買い溜めてあったワインが置かれている。
 ワイン瓶は片付けて、残ったワインは大家さんにでもあげよう。
 ぼんやりとそう考えた。もう、夜に酒の力で眠る必要はないのだから。


 悪夢は消えた。
 消えたきっかけは、起こった今ではあっけの無いもので。よく考えれば気づくもので──でも、俺一人ではけして気づけないもの。
 一緒に頑張ろう。悪夢が変わる直前に、そう言われていたのに。最初から解決策はあったのに。
 俺は、わかっているつもりで、わかってなかった。
 それをようやく、本当の意味で理解して。呑みこんで。
 オレもお前を置いて行かない、って言ってもらえて──ホッとした。

 最初から、ちゃんと言えばよかったんだ。守る、だけじゃなくて。甘やかす、だけじゃなくて。
 甘えても、よかったんだ。
 ぼんやり考えていたときに、すとん、とそれに気づいた。
 何が怖かったのか、ということも。

 俺は、俺のせいで大事な人を失うことが怖かった。

 失う可能性があることをしってしまったから。
 可能性をつぶすためには、強くならなくてはと思って。
 だけど、そう簡単に強くはなれなくて。
 焦って、迷惑掛けた挙句……逃げた。

 あの時の俺はそうするしか出来なかった。今よりももっと弱かったから。今でも、まだ弱いけれど、前よりはマシだから、逃げない。
 そして、何よりも。


 そっと、自分の口に手を当てた。うっかりやらかした無意識の行動。何でだ今日掃除しながら考えて、気づいたことがある。
 気づいたからこそ。

「……置いて逃げるのは無しだろ、俺」

 離れたくない。
 逃げたくない。
 前のように『距離をおく』なんてできっこない。

 だって、距離をおいたら会えないんだ。
 一緒にがんばれないんだ。

 それが、嫌だと今は素直に思うから。
 何事にも耐え難いことだと思うから。

 俺は右手に視線を向けた。
 この手で守れるだろうか──なんて、考えるよりも前に守りたい、と思う。
 力不足だなんて考えない。精一杯やることをやるしかない。俺が出来ることを、精一杯やらなければ。出来ることだけでも、やらなければ。
 ぎゅっと拳を握った。

 守りたい、一緒にいたい、一緒にがんばりたい。
 ──守る、一緒にいる、いっしょにがんばる。

 考える前に、やればいい。もし何かがあっても一緒なら大丈夫だと思うから。
 だから前を見る。

 ふ、と棚に目線をやった。前はしまいこんでいた故郷の物が飾られている、棚。
 俺はベッドから立ち上がって、棚の前まで行った。石やら何やらが入っている棚に、一対のベルがある。キラキラと輝くソレを、俺は手に取った。
 “カイヌスのベル”。対のものであるソレを結んでいた紐は一度切れている。もう一度繋ぎなおしたけれど。

「……うん」

 考えるよりも、と思いながら。俺はベルを見てうなずく。
 またどうせ、色々考えるだろうけれど。
 今は。

 ──今だけでも。



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