──ピクニックへ行こうと誘われた。
言った相手は母親で。子ども心に、ああ誘いではなくもう決まったことか、とユーンはぼんやり考えていた。
そして当日。
幼く小さな妹は金の髪を三つ編みにして、母親に手を引かれて歩いていく。四つ年上の兄はもしかしたら既に約束があったのかもしれない。どこかふくれた様子で後ろを歩いている。
母親は機嫌がよさそうで、父親は軽々と一家の荷物を抱えていた。
「ほら、ついたわよ」
「わー、おはながたくさん!」
たどり着いた原っぱに咲いた花々に、妹が目を輝かせてかけてゆく。早速と言わんばかりに花を摘み始めた。一方父親は、心得たとばかりに敷物を広げている。風にあおられまくれる姿に、ユーンはそれを手伝いに行った。
「とうさん、俺も手伝う」
「お、ユーンは気が利くなぁ。偉いぞ」
わしわしと乱暴に撫でられて、照れくさくなって笑う。
敷物を敷いて石を載せて固定したところで、そういえばとユーンは辺りを見回した。兄と母親の姿を探せば、なんてことはない、近くの森から母親が兄の手を引いて出てくるのが見える。
「い、いーよ、もう外に出ただろ!」
「いいえ。貴方はいっつも気を抜けばいなくなるんだもの。放してられないわ」
恥ずかしそうに声を上げる兄に構わず、母親は手を引いてこちらへ向ってくる。
「しーんにぃったらいっつもああなんだからぁ」
いつの間にか隣に立って声を発していた妹の、大人びた口調。そちらを向いたユーンは、その手に抱えた花々と、母親を真似したらしいやれやれという表情に、思わず唇をほころばせた。
◇ ◇ ◇
──海に行こうと誘われた。
言った相手は友人達で。皆で行こうという誘いに、二人きりになれることはないんだろうなと思いつつ、ユーンは頷いた。
そして当日。
薄紅色の髪の恋人は、中々可愛い花柄のワンピースを着て砂浜を歩いている。眼鏡をかけた友人は相変わらずの長袖でゆっくりと後に続く。残り一人の友人は、タンクトップに短パンに、いかにも海に相応しい格好で砂浜を駆けていった。
「おお、カニがいるぞカニ!!」
「え、本当ですか?」
興奮気味に立ち止まって報告する彼に、恋人が興味ありげに近づいていく。少しぎこちない敬語を使う彼女に、少し目元を和ませる。
「おーい、あんまり手を出して挟まれるなよー」
「いってぇ!?」
やれやれと、忠告を投げかけた友人が、響いた悲鳴に苦笑した。
「ユーン、急ごうどうやら既に挟まれたみたいだ」
「ああ」
ユーンと二人で駆け寄って、大丈夫ですか、と心配そうに見つめる彼女に、「コイツなら大丈夫だろ丈夫だし」と友人がきっぱり言いきった。
「な、俺だってまだ指まで鍛えてはいねーよ!!」
「指鍛えるにしても挟まれなくなるまでにはならないだろ」
「う。そう?」
「そー。とにかく見せろ」
友人達がそんなやり取りをしている間に、困ったようにしている彼女の側へ寄る。
「ディッファさん、大丈夫かな」
「ん、スオもああ言ってるし、大丈夫なんだと思うよ」
ならいいんだけど、と彼女のままの言葉で、恋人はユーンを見た。安心させるように微笑み返す。
◇ ◇ ◇
──デートをしようと誘われた。
いや、今度ばかりは誘った側で。頷いてくれると確信しながら、ユーンは彼女に言葉をかける。
結果的に二人でも二人でなくても。
親しい彼らと共にいる。そのこと自体が楽しいものだ。