可愛らしいぬいぐるみが点々と置かれている部屋の中、るりはベッドに座った。着ているのは既に寝巻きだ。大分乾いた瑠璃色の長髪をブラシで梳かす。
ある程度絡まった髪がほぐれたところで、ブラシをテーブルへ置いた。
「よし、と」
それから、同じくテーブルの上においておいたカバンに手をかける。中から分厚い本を取り出して広げた。しおりを挟んでおいた部分に目を走らせる。
数分後、少しページを進めたところでしおりを挟みなおして閉じる。
「今日はこれぐらいかな。もう夜遅いし」
家に帰ってきて、慌しくシャワーを浴びたために時計は見ていない。部屋にも時計はない。
ただ、帰る前に酒場で見た時間からして遅かったため、もうかなり夜が更けているのはたしかだ。そもそも根詰めてやるほど切羽詰っていなかった。
昇進試験の勉強道具、を義兄から譲ってもらったのは少し前のことだ。何となく手持ち無沙汰だったというか、気を紛らわせたかったのが大きい。
昇進したいとは露とも思っていないが、今やっておいて後で役立つかも知れない、というその程度のもの。
でもいざはじめてしまえば、中途半端に止めるのもなんだか気持ちが悪くて──楽しくなってきてしまったこともあり──気を紛らわせる必要がなくてもコツコツ続けてしまっている。
持ち歩いて、暇なときに開いてみる、というのも中々時間つぶしに丁度良いのもあって。
今日もるりは、最近誰もいないことが多いらしい酒場で時間つぶしもかねて本を開いた。
本気で勉強するなら家のほうが落ち着く。だが誰かに会いたかったのと、マスターのパンケーキがなんだか恋しくなって。
案の定、勉強をしながら待っていると、ぽつぽつと仲間が帰ってきた。勉強どころではなくなったけれど、最初からそのつもりもあったからそれでいい。
「久々に皆と話せて楽しかったなぁ」
るりは思い出しながら、穏やかに微笑む。依頼もなにもなく話せたのは久しぶりだった。
「また、本持っていこう」
本をカバンへしまい、頷く。次にるりはクローゼットから明日着る服を出して、テーブルの上に置いた。
明日は用があるため、神官服ではなく普通の服だ。職業柄、と防御の事情で神官服ばかり着ているるりとしては珍しい。
この服装で行ったらどうだろう、と少し考えてすぐに頭を振った。
「そんなことできないよ、うん」
少し頬に赤が入った状態で、つぶやく。
次の日の準備が出来れば、最後はベッドに入って軽い読書だ。昨日も途中まで読んでいたから、先が気二なる。
るりはベッドサイドのテーブルに置いていた本を手に取り、しおりを挟んでおいたページを開いた。しおりとして使っていたきれいな緑の羽を、テーブルへ戻す。同じテーブルにおいてある、ガラスの鳥の傍らへと。
ふと、その鳥を見て、物語の扉を開けようとした手を止めた。
「……今頃は、もう帰りついたかな」
家まで送ってくれた銀の髪をした同族の青年──ハーフリングだから青年でも外見は少年期とあまり変わらないが──を思い出す。
こけそびれ亭に住んでいる彼はわざわざ往復してまで送ってくれた。
酒場で最後まで話していたオレンジ色のバンダナで髪をくくった青年も、以前送ってくれたことがあった。女子寮に住んでいたころだったか、この家に住むようになった後もだったか、定かではないけれど。
どちらにしろ、わざわざ往復してまで送ってもらうことが多い気がする。
やはり子供に見える外見が大きいのだろう。ただ、今日送ってくれた彼と並んだとしても、子供が歩いているようにしか見えなかったのではないだろうか。
そこまで想像して、るりはくすくすと笑みを零した。
実際は、どちらもある程度の実力を持つ冒険者で、るり一人だったとしても成すすべもない、ということはないのだが。
(もう帰りついて、きっと寝てるよね)
瞼が重くなってきて、本を閉じる。この分だと読み始めても途中で寝てしまいそうだ。
布団を深く被って、つけていた光輝の灯りを消した。瞼を閉じれば、心地よい眠りがやってくる。
──おやすみなさい。