白い鎧を身に着けた青年達が広場に集まっていた。しっかりと整列した彼らは、目の前にそびえる建物──神殿の扉が開くのを、今か今かと待っている。
やがて、扉が開かれ、同じ色の鎧を身につけた女性が姿を現した。腰に剣を帯びており、短い金髪が風に揺れる。
女性は青年達の前に立ち、その碧眼を彼らへ向けた。その視線をうけ、一斉に姿勢が正される。
「皆揃っているようですね」
穏やかに、女性は話し始めた。彼らを見回し、微笑む。
「貴方達も知っているでしょうが、今、ハスララには騎士が不足しております。私の同僚達は既におらず、長い間、新しい騎士はいませんでした。
だからこうして、貴方達が騎士となってくれることは私にとって喜ばしいことです。
これから、ハスララを守るのは貴方達です。もちろん最初は怖いでしょう。不安かもしれません。ですが、共に鍛錬し、守れるだけの力を付ければ、自ずと騎士になれます。
一緒にがんばって行きましょう」
女性の笑顔に、青年達が身に入れていた力を抜いた。
それを確認するように女性はまた見回し、それから腰に帯びた剣を掴む。そして、静かに抜き放った。
「さて、貴方達はおぼえているでしょうか。騎士に伝えられてきた言葉を」
頷き、青年達も剣を抜く。剣の刃を地へ向けて持った。女性が静かに口を開き、それを追うように青年達が言葉を紡いだ。
──運命の声を聞け。人々の涙を受け止めよ。
この剣は我のためにあらず。守るもののために有り。運命はそれを示す
──運命から目をそらすな。
それが人々のためにならぬ運命ならば、運命に剣を向けよ
──運命の声を聞け。人々の涙を受け止めよ。
この剣は我のためにあらず。守るもののために有り。運命はそれを示す。
「それ故に──我は運命の声を聞き、守るもののために剣を取る!!」
徐々に彼らのもとへと集まっていた光が一際強くなり、はじけた。煌きながら地面へ消えていく。青年達の中から歓声がわぁ、と上がった。
「覚えているようですね。これは私達ハスララの騎士──とりわけ、神子の騎士に伝わってきた言葉です。
オルス神は貴方達を祝福しました。これからは、この言葉の通りにあれるよう、努めてください」
彼らの様子を見て微笑みながら、女性が声を張り上げる。
「さて、明日は昼から剣の鍛錬を行ないます。西門に集合してください。それでは、今日は解散!」
家族への報告や、様々な準備に散っていく青年達を尻目に、女性──コンスタンスは踵を返した。話しかけてくる若者には微笑みと言葉を返し、別れる。
神殿の中を進み、普段使っている神殿内の部屋の中へと滑り込んで、小さく息を吐く。
「……ようやく騎士団が再編されましたよ、団長……。私が、これからは団長です」
空へ向けて呟いた。そこに相手がいるはずだからだ。
コンスタンスの住む地──再生の町、と呼ばれるハスララはオルス教、というあまり一般的ではない宗派への信仰の中心地だ。
昔に失われたといわれていた町だが、冒険者の活躍によって町並みが戻り、子孫が戻ってくることになった。……と、言われている。
ともかく、ハスララという町は一度なくなったこともあり、発展が周囲の町より遅れていた。自衛の術すらない。それどころか街の中心となるはずのオルス教への信仰も、信仰対象である神子と少しの神官しか残っていないために、酷く不安定だった。
サイコラウンの首都ヘッポ=コーマルから援助も受けているが、いつまでも世話になっているのでは弱みが出てきてしまう。
そういったこともあって、唯一神子の騎士という身分を持つコンスタンスと、その弟であり神官であるクリスは、ハスララが復興されてから忙しく立ち回っていた。
そしてようやく、自衛の手段として騎士団を再編するに至ったのである。
「クリスのほうも順調のようですし……これからはもっと楽になるでしょうか」
微笑みつつ言って、椅子に座った。剣を壁へと立てかけ、次に身に着けていた鎧を脱いでいく。全て脱げば、身も心も軽くなったようだった。
(クリスに今日これからは休めといわれているし…………暇なのも久しぶり)
ずっと休みなく動いていたこともあり、いざ何もなくなると何をすればよいかわからなくなるものだ。
コンスタンスに長く何も出来なかった時期があったからこそ、何もしなくてよい時間、というものをもてあますのかもしれないが。
「……服を着替えて、久しぶりに中庭へ出ようかな」
独り言を言って、神殿の部屋に置いてある着替えを取り出した。袖を通し、ラフな格好のまま部屋を出る。
途中、何人か神官見習いのヒトに会って会釈し、廊下を進む。すぐに中庭へ出る扉が見えてきた。
一応復興されてからざっと見て回ったが、中庭へ来るのはそれ以来だ。ドアノブへ手をかけ、外へ足を踏み出す。
「……」
風が花々を揺らして吹いていった。世話するものがなく、一度死んでいた中庭は、いまやすっかり昔の姿を取り戻している。
雨が降り太陽の日差しが差し込み眠っていた種が芽吹き、自然に世話をするヒトが戻ってきたのかもしれない。
その懐かしさにコンスタンスは辺りを見回し、小さく息を漏らした。
「変わったはずなのに……何も変わっていないように見えますね」
矛盾する台詞を口にして、自分でも気づき苦笑する。
中庭を歩く。懐かしい花々や、新しい景色がそこにはあった。昔のままというわけではなく、だが確かに昔の雰囲気がそこにある。
ある一角で足を止めた。辺りの光景を確認し、立つ場所をずらして……目を伏せる。
「運命の声を聞け……」
そっと、先ほども口にした言葉を唇に載せた。しかし今回は全てを言うことはなく、そのあとは心の中のみで続ける。
そうして全てを詠みおわり、コンスタンスは瞼を開けた。静かに振り返る。
新しいけれど、どこか懐かしい中庭、再度始まった様々なこと。
──例えあのときと同じことを繰りかえしても、また同じように新たには始まってはくれない。それは当たり前のことだ。
昔、視線の先へと立っていた彼も、今はもう。
「……」
声にならない声で、名前を落とす。すぐに音は空間へと消えていった。
あのあと、もし生きていたのだとしても。
コンスタンスがここに立つまでには、長い時間が経ちすぎた。
ほとんど反則じみた方法で戻ってきた彼女とこの町に、別の道を歩いていた彼がついてこられるとは思えない。
つまり、どうやっても今、彼はもう「いない」のだ。
「……モニカ様の、元へ行こう」
その事実が苦しくて。
嫌というほど向き合ったはずの事実だというのに、未だに苦しくて。
──けれど考えないという選択肢はなかった。
中庭から目線を外し、見ないようにして歩き出す。せっかくの休みなのに、と弟に見つかれば怒られるかもしれない。だが、これでは休めないのだ。
一人になる時間が長いと、つい考えてしまって精神が休まらない。
守るべきオルス教の神子、モニカの笑顔と声を思い起こせば、苦しさは静かに引いていく。意識しない場所まで隠れてくれる。
完全になくなるということはありえないから、せめて、意識せずに生きて行く。
──そうしなければ悲しさに潰される。